マンション売却はオーナーチェンジの場合どうなる?売却の流れ・ポイント・注意点を解説
本記事では、入居者がいる投資用マンションを保有している方が売却したいと思った際、オーナーチェンジの概要と売却の流れ、評価基準、メリット・デメリットをお伝えします。
その上で、オーナーチェンジ物件の売却で失敗しないためのさまざまなポイントについて解説していきます。
オーナーチェンジでのマンション売却とは
オーナーチェンジでのマンション売却とはどういうものなのか、まずはその仕組みと売却の流れをわかりやすく解説します。
オーナーチェンジ物件の概要
オーナーチェンジとは、現在入居している賃借人(部屋を借りている人)がそのまま住み続けた状態で、物件を売却することをいいます。
文字どおり「オーナーだけが入れ替わる」ため、このように呼ばれています。
売却後は、新しいオーナー(物件購入者)が前オーナーに代わり、既存の賃貸借契約をそのまま引き継ぐ形になります。
賃借人は引き続き同じ部屋に住み続けるため、退去の必要はありません。
オーナーチェンジ物件の査定基準
通常のマイホーム(自分が住むために保有する物件)の売却では、基本的には取引事例比較法が使われます。
これは、対象物件と似た条件の過去の成約事例を元に価格を算出する方法で、一般的な住宅ではもっとも馴染みのある価格査定手法です。
しかし、収益不動産であるオーナーチェンジ物件は、当然ながら「投資目的の不動産」として扱われます。
そのため価格を算定する際には「どれだけ収益が出る物件なのか」がベースとなります。
そのため、収益不動産では、収益還元法という価格算定法が用いられることが一般的です。
収益還元法とは?
収益還元法は、「その物件が将来どれくらいの収益を生み出すか」を基準に価格を求める方法です。
収益還元法には以下の2つがあります。
・直接還元法(最も一般的)
・DCF法(詳細なシミュレーション向け)
個人投資家が簡易的に用いるのは直接還元法です。
直接還元法の計算式
直接還元法は次の式で求められます。
【一年間の収益(=NOI)÷還元利回り】
年間の収益:家賃収入から管理費や経費を差し引いた実質の収益
還元利回り:類似物件の利回りやエリアの平均利回りを参考にした数値 FCF法と異なり、直接還元法では、還元利回りに将来の不確実性が織り込まれているものとみなされます。
イメージとしては、「この物件の収益性なら、投資家はこのくらいの価格で買うだろう」という根拠になる数値と考えると理解しやすいです。
オーナーチェンジ物件の売却の流れ
オーナーチェンジ物件の売却の基本的な流れは、通常の居住用マンションの売却と大きく変わりません。
ただし 「既に賃借人が居住している」 という点が異なるため、いくつか実務上の特徴があります。
ここでは一般的な流れを順に解説します。
(1) 不動産会社に仲介を依頼する
最初のステップは、不動産会社へ売却の相談をすることです。
オーナーチェンジ物件は投資用不動産として扱われるため、投資マンションの売買に強みを持つ不動産会社に依頼するほうがスムーズに進みます
・投資家の顧客リストを多く持っている
・利回り計算や賃貸管理、税関連の知識が豊富
・オーナーチェンジ物件の成約実績がある
こうした会社であれば、より適切な価格設定や販売戦略を提案してくれます。
(2) 仲介会社を選んで媒介契約を結ぶ
複数の会社に査定を依頼し、その結果も合わせて参考にして依頼する仲介会社を選びます。
査定額の高さだけで判断するのではなく、投資用物件の販売力・担当者の知識・提案内容 などを総合的に見て選ぶことが重要です。
選んだ会社と 媒介契約(一般/専任/専属専任)を締結すると、販売活動が正式にスタートします。
(3) 販売活動を行い、売買契約を結ぶ
仲介会社が購入希望者(不動産投資家など)へ向けて物件を紹介します。
居住用物件と異なり、賃借人が住んでいるため室内の内見(内覧)は原則できません。
そのため、
・家賃収入
・管理費用など経費の詳細
・利回り
・賃貸借契約の内容
・管理状況
といった収益情報が、購入判断の材料になります。
購入希望者と条件(価格・引き渡し時期など)が合致すると、売買契約を締結します。
(4) 決済・引き渡し
売買契約後、売主・買主の予定を調整し、決済(代金の支払い)と引き渡しを行います。
オーナーチェンジ物件には入居者がいるため、
・カギの受け渡し
(オーナー保管用カギがある場合は、引き渡し時にやり取り)
といった手続きは不要です。
「登記上の所有者が変わる」=「引き渡し完了」という流れになります。
その後に、賃貸借人(入居者)に報告されます。
新しいオーナーは、前オーナーから賃貸借契約と家賃収入をそのまま引き継ぐ形です。
オーナーチェンジでのマンションの売却のメリット・デメリット
ここからは、オーナーチェンジ物件を売却する際のメリットとデメリットについて詳しく解説します。
収益物件として安定した家賃収入が得られる一方で、購入検討者が限定されるなど、通常の居住用物件とは異なる特徴もあります。
詳細は後述しますが、一般的には 「空室の状態の方が売却しやすい」 といわれることもあります。
オーナーチェンジならではのメリットもあるため、両方の側面を理解しておくことが、後悔しない売却につながります。
オーナーチェンジでのマンションの売却のメリット
売却まで家賃収入が得られる
マンションは売却活動を始めても、すぐに買主が見つかるとは限りません。
空室のまま売却を続ける場合、管理費・修繕積立金・固定資産税などの維持費が毎月発生し、どうしても収支はマイナスになります。
その点、オーナーチェンジ物件(賃貸中の状態)であれば、売却期間中も家賃収入が入るため、維持費の負担を軽減できることが大きなメリットです。
売却が長期化しても収入が途切れないという安心感があり、資金計画も立てやすくなります。
入居者の退去を待たずに売却できる
オーナーチェンジでの売却では、入居者がそのまま住み続けた状態で売却が完了します。
そのため、
・退去日を待つ必要がない
・売却のために入居者へ退去を依頼する必要もない
・空室期間が発生しない
といったメリットがあります。
入居者とのトラブルを避けられるだけでなく、売り出しまでの準備期間も短縮されるため、スピーディーに売却手続きを進めたい人にとって魅力的な方法です。
空室の状態より売却価格が安くなる
オーナーチェンジ物件は、空室の状態で売る場合よりも売却価格が低くなる傾向があります。入居者がいるということは、その物件に賃借権がついていることになり、単純な所有権の取引ができないからです。当然 不動産の評価額も低くなります。
空室であれば、自分で住む目的の購入希望者(エンドユーザー)に向けても販売できます。
エンドユーザーの多くは、金利が低く返済期間が長い住宅ローンを利用するため、販売価格が多少高くても購入検討に乗りやすい特徴があります。
一方、オーナーチェンジ物件の購入者は不動産投資家が中心となります。
投資家は「収益性」を最優先に判断するため、
・家賃収入に対して価格が見合っているか
・利回りが適正か
・購入後の収支がプラスになるか
といった基準で物件を選びます。
このため、一般の居住用と比べると、結果として売却価格が低くなりやすいのです。
買い手が投資家に限定される
オーナーチェンジ物件の大きなデメリットとして、購入者の母数が限られることが挙げられます。
通常のマンションであれば、「自分で住む家を探している人」が広く対象になりますが、オーナーチェンジ物件を購入するのは基本的に不動産投資家のみです。
投資家の人口は、自己居住目的の購入希望者と比べれば明らかに少ないため、
・検討してくれる人自体が少ない
・成約までに時間がかかりやすい
・条件交渉がよりシビアになりやすい
といった特徴が生まれます。
その結果、売却のチャンスが限られ、販売期間が長引きやすいという傾向があります。
物件自体に問題がなくても、買い手の層が狭いことで売却スピードが大きく影響を受けてしまう点が、オーナーチェンジ物件の注意すべきポイントです。
オーナーチェンジでのマンション売却の注意点
ここからは、オーナーチェンジ物件を売却する際に押さえておきたい重要な注意点について解説していきます。
通常の居住用物件とは評価基準や購入者層が異なるため、事前に理解しておくことでスムーズな売却につながります。
オーナーチェンジ物件の売却が得意な不動産会社に仲介依頼する
オーナーチェンジ物件を売却する際は、収益物件の取り扱いに強い不動産会社を選ぶことが非常に重要です。
同じ不動産会社でも、居住用物件と投資用物件では求められる知識も販売戦略も大きく異なるため、担当会社の得意分野に合っているかどうかが売却スピードや成約率に直結します。
不動産会社を比較する際は、まず複数社に査定を依頼してみるのがおすすめです。
最近では、AI査定・匿名査定・一括査定などのオンライン査定サービスが充実しており、手軽に複数社の査定額や対応を比較できます。
査定額が高いからといって必ずしも優良な会社とは限りません。
オーナーチェンジ物件の場合は、
・収益還元法に基づいた根拠ある査定をしてくれるか
・国内外の投資家向けの販売ルートを持っているか
・こちらの質問や連絡に誠実かつ迅速に対応してくれるか
といったポイントを総合的にチェックすることが大切です。
信頼できる不動産会社に依頼することで、適切な価格設定や販売戦略が立てやすくなり、スムーズな売却につながります。
利回りの計算方法
利回りは次の計算式で求められます。
【表面利回り = 年間家賃 ÷ 販売価格 × 100】
※表面利回りとは、管理費・修繕積立金・税金・諸経費を差し引く前の「利回り」です。
投資家はまずこの利回りで物件をふるいにかけます。
具体例で考える利回りと販売価格
たとえば、家賃10万円の物件で利回り5%を目指す場合、
・年間家賃:10万円 × 12か月 = 120万円
・利回り5%の場合の販売価格:120万円 ÷ 0.05 = 2400万円
となります。
同じ物件を 3000万円で売り出そうとすると、
【年間家賃120万円÷3000万円=利回り4%】
となり、都心の一等地なら4%台を切っても流通しますが、それ以外の場合はきついと思われます。
なぜ利回りが重要なのか?
投資家は、複数の物件を利回り順に比較して検討します。
利回りが低い物件は「収益効率が悪い投資」と判断され、価格を下げない限りは検討されにくくなります。
つまり、売却価格を高く設定すると利回りが下がり、結果的に売れにくくなるという構図が生まれるのが、オーナーチェンジ物件の特徴です。
立ち退き交渉は必ずうまくいくとは限らない
オーナーチェンジではなく、空室の状態で売却したい場合は、現在の入居者に退去をお願いする必要があります。
ただし、普通賃貸借契約を結んでいる場合、家主側に入居者へ強制的に退去を求める権利はありません。
あくまで双方の合意に基づいて進める必要があり、交渉がスムーズにいくとは限らない点は押さえておく必要があります。
退去をお願いする際には、一般的に立ち退き料(退去補償)を提示します。
立ち退き料に明確な法律上の基準はありませんが、実務では以下の費用をカバーするケースが多く見られます。
・引っ越し費用
・新居の敷金・礼金
・不動産会社への仲介手数料
・その他、転居に伴う諸費用 など
金額はケースバイケースですが、家賃の6カ月分程度を目安とする実例が多いようです。
交渉を切り出すタイミングとしては、賃貸契約の更新時期の約半年〜1年前が望ましいとされています。
更新直前は入居者にとっても選択肢を考えやすく、話し合いが前向きに進みやすい時期だからです。
とはいえ、どれだけ丁寧に交渉しても、入居者が納得しない場合は退去に応じてもらえない可能性も十分あります。
この点を理解したうえで、空室での売却にこだわるのか、オーナーチェンジのまま売却するのかを慎重に判断することが大切です。
不動産業者の買取も検討すべき
オーナーチェンジ物件の売却は、前述の通り価格設定が難しいうえ、入居者の退去交渉も簡単ではないといった課題があります。
さらに、買主となる不動産投資家は、収益性を重視するため、一般の居住用物件の購入者よりも価格にシビアです。
利回りを確保する目的で、相場よりも低い購入希望額を提示されるケースも珍しくありません。
こうした理由から、「できるだけ早く売りたい」「長引かせたくない」という場合には、不動産会社による買取(業者買取)を検討するのも一つの方法です。
買取には、相場価格より売却金額が低くなりやすいというデメリットがあります。
しかし、
・買主が既に決まっている
・面倒な退去交渉が不要
・手続きが圧倒的に早い
という大きなメリットがあります。
また、不動産買取業者が直接買い取る場合は、仲介手数料が不要になるケースが多いほか、残置物の撤去やリフォームをしなくてもよいという点も、売主にとって大きな負担軽減につながります。
時間的な制約がある人や、売却のストレスを減らしたい人には、業者買取は選択肢として非常に有効です。
まとめ
オーナーチェンジ物件の売却には、空室で売却する場合と比べて、販売価格が下がりやすい・買い手が投資家に限られるため売却チャンスが少ないなどのデメリットがあります。
そのため、可能であれば入居者との話し合いを行い、空室の状態にして売却する方がより高い価格で売却できる可能性が高まります。
ただし、退去交渉は必ずしもスムーズにいくとは限らず、時間や労力、費用がかかる場合もあるため、慎重な判断が必要です。
一方で、「できるだけ早く売りたい」「手間をかけずに売却を進めたい」という場合には、不動産会社による買取を選ぶのも有効な手段です。
買取は価格が下がる反面、退去交渉が不要で手続きも早く、売主の負担を大きく軽減できます。
オーナーチェンジ物件の売却は、通常の居住用物件とは異なるポイントが多く、判断に迷う場面も多いものです。
本記事が、売却方法を検討する際の参考になり、より良い選択につながれば幸いです。
氏
不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーション、CREコンサルティングなどを行うかたわら、同分野の連載を月15本、テレビ、ラジオのレギュラー番組への出演 多数。
また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演を毎年多数。
HP
https://www.yoshizakiseiji.com/
著書
間違いだらけの住まい選び
「不動産サイクル理論」で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術
データで読み解く賃貸住宅経営の極意
大激変 2020年の住宅・不動産市場
「消費マンション」を買う人 「資産マンション」を選べる人
など全12冊、他連載多数
